終日中継局(2012)

8年前、都内にて夕方になり流れてくる音を現地の屋外スピーカーに足を運び
録音しました。録りながら 区域ごとに鳴る曲目、鳴る時間に違いがあり 生活
時間 (日常) と有事 (非日常) を想定した機材テストとを併せもった音であることを知りました。   一日という時間の中、生活時間として便宜的にお知らせする
終わりがあります。会社であれば就業時間のお知らせ、お店であれば営業時間
のお知らせ、地域であれば夕方どこからともなく聞こえてくる音になります。
日本全国、様々な地域で夕方になると聞こえてくるその音は毎日防災放送設備
から流されています。災害等の非常事態に、住民への情報提供の為に使われる
放送設備。 防災行政無線。 非常事態を想定した テストのため、毎日 流されて
いるその音は更新されていく現在の日常を奏でます。

外部の者が通信内容を本来の送受信者に知られているかに係わらず聴取する行為
を傍受と言います。自治体ごとに割り当てられている防災行政無線の周波数を、多岐にわたり様々な講座が催され不特定多数の人々が集まる会場から終日中継する仕組みを考案しました。会場はマンションの一室にてベランダがあり、手すりに設置された 屋外スピーカーにより 公的情報が送受信される 情報環境を 構築する。また、立地するマンションの近隣への情報としては、割り当てられた地域の防災行政無線と同じ周波数の為、個人/公共の識別が曖昧となり、日常を外在化する試みとなります。

防災行政無線を受信するため、広帯域受信機での運用となりました。広帯域受信機とは、0.150~1309.995MHzと中波から極超短波まで受信範囲帯域が広い受信機です。 いわゆるAMラジオ、FMラジオ、船舶無線、警察無線、消防無線、航空無線、盗聴器、携帯電話、コードレス電話、コンサート会場のスタッフ無線、カラオケのワイヤレスマイク、アマチュア無線等その範囲の電波であれば受信は可能です。展覧会期間中は防災無線に割り当てられた周波数を広帯域受信機に設定して、終日受信状態のまま屋外スピーカーからの放送を実施します。




All Day Relay Station(2012)

8 years ago, I recorded a piece of music which was played in the evening from a speaker set out in the public space by a local governing body. 
I realizedthere are variations in sound and time depending on the sender and this also meant a daily radio test for social emergencies on a particular radio frequency. In a normal day, there are“ends”set for various purposes. 
For example, one for office workers, one for shops, and yet another one for local residents. All are marked by sound. 
The sound, delivered in every region in Japan every evening, is from the disaster radio system which is used during earthquakes or tsunamis and announces necessary information to the residents in the state of social crisis. The sound thus marks anelongation of everyday life.

Radio interception is when non-relevant people receive a radio message no matter what the sender or recipient wishes. I have realized a system which intercepts and re-transmits various local administrative radio sounds all day from the office and lecture room of Arts Initiative Tokyo. 
The space is located in an office building and release the public radio test. This is an attempt to externalize everyday life for the residents and passersby in the surrounding area by blurring the boundary between private and public by redirecting the same public radio frequency in a specific area.

A wide band receiver has enabled this experiment. It is of a type that is able to receive radio frequency between 0.150MHz and 1309.995MHz. 
With this device, one receives AM radio, FM radio, radio for maritime, mobile phone, wireless phone, wireless microphone in Karaoke or any radio in this band. In this exhibition, I have tuned a frequency to the one in the area and leave the receiver and speaker switched on all day.



photo:Yukiko KOSHIMA
終日貼紙(2012)

2011年7月下旬、仙台からバスに乗り郷里石巻に到着。
震災後初めての帰省となりました。市内中心部の建物に堆積した瓦礫は、自衛隊とボランティアの協力もあり、取り除かれ、仮設の映画セットのような室内には人気がありませんでした。

実家までの帰路途中に寂れたケーキ屋さんがあります。
もうかれこれ、10年以上開店休業状態でした。2階に住居があり、1階のお店にあるガラスケースには、日持ちするものしか置いていませんでした。
そのうち年々、鉢植えが店内に置かれ、お店と言うよりお茶の間になっていき、お客さんはほとんど見かけませんでした。

そんなケーキ屋さんも被災して、1階のお店は無惨な状態でもう誰も住んでいないのではと思ったところ、2階に通じる階段のドアに「家族2人居ます」  との
貼り紙があるのに気づきました。当時、安否確認の為に貼り出された紙も  今では回収されたり、貼り付けられた建物ごと解体され、更地となった家も多いと聞きます。

安否確認の貼紙は現在では、個人や会社のブログでインターネット上の画像としてしか見ることはできません。     写真に収められた貼紙と貼紙が掲示されていた場所との関係から示される情報が、転移していく経過を辿りました。
インターネットから転送され、震災当時に安否確認を呼びかける貼紙画像を元の大きさにまで引き延ばし、画像内の貼紙部分のみを切り取り、会場のあるマンション部屋の入口ドアに貼り付け、切り抜かれた貼紙画像を会場内の壁面に貼り付けます。ドアの前で、訪問者は、物質そのものに対峙するというよりも、物質によって媒介される観念に対峙します。疑似化された写真と切り抜かれた写真に挟まれて、まさしく写真そのものである (貼紙ではなく、貼紙のイメージでしかない) と訪問者に強く感じさせる試みとなります。




AllDayLavel(2012)

In late July 2011, I arrived in my home town Ishinomaki city in Miyagi
prefecture by taking a bus from Sendai city. 
That was my first visit after the earthquake on 11th March 2011. 
Rubble piled up on buildings around the city centre was removed by the Japan Self-Defense Force and volunteers and I saw hardly any people in the scenery which looked like a temporary set up for a film set.

On the way to my home, there is an inactive cake shop. It has seemingly been
open with hardly any customers for at least 10 years. They seemed to display and sell only dry sweets in the glass case in the shop and live upstairs. 
One day, they started installing small plants in the shop and kept on doing that year by year to  the degree the space became a living room.

When I passed in front of the shop on my way home this time, I thought that it
would be abandoned with severe damage by the tsunami; however I realized a note on the door indicating the upstairs saying that      “2 persons are living here.”     I have heard that those labels in emergency claiming local residents' safety or rescue in the aftermath of the disaster were taken off or dismantled together with houses or buildings to a vacant plot.

Therefore, one can have access to the label only through the images on the
internet today.        This leads to an experiment, in which I have examined a process in which a relationship between a label in a picture on the internet and an actual site where it is attached is transformed. 
An image of a label taken from the internet is enlarged to life size. An image
of a taped label in the image is cut out and displayed on the front door of 
AIT room and the rest is attached on the wall inside.
With this work, I believe the visitors face a concept mediated by material rather than the material itself. Bound between a copied image of a label 
and its margin,one cannot help but strongly feeling this is a sheer image 
and not the label itself.



photo:Yukiko KOSHIMA


「守章」が提示する震災後アート――日常と災害、並走する国(夕刊文化)
2012/11/27 日本経済新聞 夕刊 

震災前から「震災後」を見据えていた作家がいる。アートユニット「守章(もりあきら)」。防災無線をモチーフにした観念的な作品世界を12月11日まで開催中の「終日中継局」展に追った。
 「石森無事です。自宅にいる」――。東京・代官山近くのビルの3階。アート系特定非営利活動法人(NPO法人)、AIT(エイト)(アーツイニシアティヴトウキョウ)の事務所のドアに、粘着テープで固定された貼り紙があった。東日本大震災の被災地のあちこちに貼ってあった安否確認の貼り紙。家族や知人の生存を願う被災者なら、これを見つけて歓喜しただろう。でもここは被災地から遠い、東京の一画。近隣の住人や配達人は、これを見てもただ戸惑うだけだ。
各自の距離感映す部屋に入ると、この貼り紙部分だけを切り抜いた大型の写真ポスターがあった。写っているのは宮城県石巻市の漁業関係施設と思われるビルの壁。元の貼り紙はここにあったものに違いないが、写真である以上実物ではないとわかる仕掛け。「実はネットで見つけた画像を実物大に拡大したものです」。守章メンバーの守喜章氏は種を明かす。
震災後、郷里の石巻市に帰郷した際、近所の被災した洋菓子店に「家族2人居ます」という貼り紙を見つけた。「近くに生死を分けた状況があったことを初めて切実に感じた」。それでも自分が撮った写真を作品には使わなかった。
貼り紙の現物は、がれきの撤去と同時に失われ、今はネット上でしか見られない。複製の貼り紙で、「現実」が「情報」に転化する過程を示そうとしたわけだ。訪問者はそれと向きあうことで「貼り紙という物質そのものではなく、貼り紙に喚起されるそれぞれの震災に対する距離感や観念に対峙するわけです」。
守章はもともと一卵性双生児の兄弟ユニット。2人の微妙な差異や身体性をテーマに、映像インスタレーションなどを発表してきた。兄が郷里の家業を継ぎ、今は弟の守喜章氏がほぼ1人で活動している。
1人になって始めたのが、全国の自治体の防災行政無線の音の採録。夕方に「夕焼小焼」「故郷(ふるさと)」などの音楽がスピーカーから流れるあの放送だ。喜章氏はこの録音作業を、震災の起こる前の2006年に始めた。これまで政令指定都市を中心に全国100カ所以上の地域で録音し、ネットで公開してきた。
 「日本人には特別な感慨を催させるこの音に、何かの意味があると思った」。子供たちが家路につく時間を示すとともに、この放送には、災害発生時にきちんと放送が機能するかを確かめる役割もある。「現実に流れる日常世界と並行し、この国には常に災害という非日常の世界が隣り合わせで同時進行している。防災無線の音にはそんな意味合いがある」と考える。
違う見え方伝える奇をてらった派手さを作品に求めない。それは「すでにあるものが今までと違う見え方をしてだれかに伝わることこそアート」と考えるから。会場にも見るべき作品はほとんど展示されておらず、「鑑賞目的で来ると面食らうはず。でも、それでいい」。貼り紙や室内の空気がもたらす緊張感や違和感。そこに生まれる非日常の感覚もまた、狙いのひとつだからだ。
ベランダにアンテナとスピーカーが設置されていた。広帯域受信機に設定し、近くの目黒区の防災無線を終日傍受する「終日中継局」という“作品”だ。
午後5時ちょうど。スピーカーが鳴り始める。藤山一郎作曲の「めぐろ・みんなの歌」の美しいメロディー。それは数十秒で終わり、続いて制御信号と呼ばれる無線放送につきものの耳障りな雑音が延々と続く。腹の底に響く不気味な音。平凡で幸福な日常世界は、もろくてはかない地盤の上に立脚していると感じた。
(文化部 富田律之)



日本経済新聞 夕刊 2012/11/27
日本経済新聞 夕刊 2012/11/27